パラインフルエンザウイルスのRNAポリメレ-スは、L遺伝子とP遺伝子の産物から構成されている。このウイルス群の代表であるHVJのRNA合成に関する温度感受性変異株TS23は、野生株のL遺伝子産物を供給すると非許容温度でも増殖可能になる事から、Lの変異株と考えられる。今年度は、このTS23のL遺伝子の構造解析を試み、L遺伝子のほぼ全長に対応するCDNAクロ-ンを得た。そしてほぼ半分に当たる3500塩基の配列を決定し、野生株の配列と比較した。当初は、少数の変異を予想していたが、3500塩基中80塩基の変異が認められ、うち35個の変異がアミノ酸の置換を併なっていた。またアミノ酸置換はL遺伝子の全体にほぼ一様に分布していた。野生株のL遺伝子との間で組み換えを行ない、TS23の表現型を支配する変異部位の同定を試みている際中に、渋田教授は亡くなられた。 パラインフルエンザウイルスの赤血球凝集素ニュ-ラミニデ-ス(HN)は、ウイルスの細胞への吸着と、子孫ウイルスの細胞からの放出に重要な役割を果たす糖蛋白質である。HVJのHNは、ニワトリの赤血球を凝集するのに対し、HVJに近縁な牛パラインフルエンザ3型ウイルスのHNはニワトリの赤血球を凝集せず、これらのウイルスの宿主域とよく対応している。ウイルスの宿主域を決定しているHNの機能構造を明らかにするため、HVJと牛パラインフルエンザ3型ウイルスとの間で4種類の組み換えHNを作製し、ワクチニアウイルスをベクタ-として哺乳動物細胞中で発現させた。しかし発現した組み換えHNの赤血球凝集能の血球特異性を調べている途中で、渋田教授は亡くなられた。
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