研究概要 |
平成2年度にゲノム遺伝子の単離に成功したCD3ζ鎖およびCD37鎖遺伝子の特異的エキソンにneo^rまたはhygromycine^r遺伝子を導入し、3'末端にはHSVーtk遺伝子を付加したtargetingベクタ-を作製した。両ベクタ-をT細胞ハイブリド-マに遺伝子導入し,G418^rクロ-ンをPCRでスクリ-ニングし,更にサザンブロットにより,ζまたはη鎖に不活性化変異の導入された細胞株を各々樹立した。CD3ζ鎖targetedクロ-ンは,通常のmRNAもζ蛋白もほとんど産生しない。これに伴って細胞表面のT細胞レセプタ-発現は正常の1/10以下であり、抗原刺激に対して何の反応も示さなくなった。これらから,CD3ζ鎖はTCR複合体のassemblyおよび細胞膜への移送に重要であると共に抗原認識に不可欠であることが,今までの突然変異株でない,遺伝子特異的変異クロ-ンによって明らかになった。ζ鎖targeted株は染色体分析よりζ鎖のある第一染色体は2本のみであり,しかも片側アリルのみに不活性変異が導入されているにもかかわらず、ζ鎖蛋白ができない事から両染色体が等価ではなくactive alleleが存在し,ホモロガスリコンビネ-ションはこのalleleに起り易いと思われた。この事実は,培養細胞株を用いたシグナル伝達に関与する細胞内分子の機能解析に,in vitro targeting法が非常に有効であることを示した。in vitroの結果に基づき,CD3ζη欠損マウスを作製するため同じベクタ-をES細胞に導入することにより,CD3ζ,η共に,片側のアリルに変異を有するESクロ-ンの樹立に成功した。このESクロ-ンをブラストシストに導入しマウスに戻して,ES由来の形須を有するキメラマウスをCD3ζ,η両者について得た。現在,これらのキメラマウスをかけ合わせgermline transmissionを調べている過程である。これらの欠損マウスにより,T細胞機能;分化におけるCD3ζ,ηの役割を明らかにできると期待される。
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