2年間にわたって、B細胞の初期分化過程の増殖と分化の調節について検討した結果を以下に箇条書きにまとめる。 1.B細胞初期分化過程の細胞増殖を、リコンビナントILー7とILー7を発現していないストロマ細胞株PA6を組み合わせてカバ-することができる。またこの分化は、(1)PA6のみで増殖する段階、(2)PA6とILー7両方の必要な段階、(3)ILー7のみで増階する段階、を経て進む。 2.PA6ストロマ細胞株が発現する増殖因子のうちCーkitのリガントであるSLFはB細胞初期分化にとっても重要である。しかし、リコンビナントSLFのみではPA6細胞株そのものと比較すると増殖支持活性は弱いことから、SLF以外の増殖因子が必要であることも示唆された。 3.以上のように、B細胞初期分化過程の細胞増殖の調節はストロマ細胞が発現しているILー7やSLF等の因子によっておこなわれている。しかし細胞の分化を進める最も重要なシグナルは、B細胞分化の過程で発現してくるμ鎖そのものである可能性が以下の実験より明らかになった。すなわち、μ鎖を発現できないSCIDマウスあるいはμ鎖遺伝子の膜通過ドメインを欠損させたマウスでは、PA6とILー7両方の必要な段階からILー7のみで増殖できる、段階への分化が進まない。しかしSCIDマウスにμ鎖遺伝子を導入するとILー7で増殖する段階への分化が進む。このストロマ細胞依存性がなくなる分化過程に呼応して、ストロマ細胞の発現するSLFに対する受容体であるCーkitの発現が失われることは、B細胞の分化を進めるシグナルが、μ鎖の発現そのものである可能性を強く示持している。 以上の結果、B細胞初期分化過程での細胞の増殖分化調節に関する大節はほぼ理解できた。今後は分化の決定機構等のよい困難な問題の解決に、これまで開発してきた実験系を利用していくことが重要と考える。
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