研究概要 |
近年、脳梗塞,虚血性心疾患の発症要因として、血管壁の硬化のみでなく、血液の凝固・線溶系と血栓形成の関連が注目されている。本研究は高血圧、高脂血症等の従来から指摘されているファクタ-以外に血中の脂肪酸組成や血漿中のフィブリノ-ゲンが凝固・線溶系を介して当該疾患の発症に及ぼす影響を疫学的に解明するとともに、血漿フィブリノ-ゲン値に影響を及ぼす諸要因を検討した。昨年度に大阪の都市3集団(近郊住民および事務系、現業系企業従事者)2403名の疫学調査を実施したが、本年度は都市3集団を4263名に増加するとともに農村3集団(関東,東北,四国)3901名について調査を行なった。その結果、都市3集団,農村3 集団のすべてを通じて血漿フィブリノ-ゲン値は、(1)40才代以上では加令と共に上昇する。(2)男は女よりも低値を示す。(3)喫煙者は非喫煙者よりも高値を示す。(4)魚介類摂取量の少い者ほど高値を示すことが認められた。しかし、性、年令、喫煙状況を補正した各集団の血漿フィブリノ-ゲンの平均値の差は、魚介類摂取状況の差のみでは説明しえず、他のリスクファクタ-,或いは遺伝的因子の関与が示唆された。以上より、欧米に比較して魚介類の摂取量の多いわが国では、血漿フィブリノ-ゲンは低値を示す傾向にあり、血中のW3系脂肪酸が高値を示すこととも相まって、血栓形成を抑制し、脳梗塞、虚血性心疾患の発症に抑制的に働く可能性が示唆された。このことを追跡調査により解明するため、血清保存、脳卒中、虚血性心疾患の発症調査を継続実施中である。また、血漿フィブリノ-ゲンの遺伝因子の分析もミネソタ大学と協力して実施中であり、日本人と白人の間でDNAタイプの頻度及び、DNAタイプ別の血漿フィブリノ-ゲン値の比較検討を進めつつある。
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