研究概要 |
本研究で得られた成果はヒトに病原性を有するレトロウイルスの1つであるT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)が、これまで考えられた白血病や一部の脊髄神経疾患でなく、慢性関節リウマチやシェーグレン症候群など、いわゆる自己免疫系疾患との関与が明らかにされ、これらの難治性疾患の成因解明に大きな手掛りを与えてきた。すなわち、HTLV-Iを構成している関節症についての解析を通して次の点を明らかにした。 1)HTLV-Iの関与している関節症については、その疾患概念はすでに報告した。それらの患者から末梢血中リンパ球、関節液細胞、滑膜組織を得、組織内及びリンパ球DNAを抽出し、その一部にHTLV-Iウイルスゲノムの存在をサザンブロット法、及びPCR法にて確認した。このことは、HTLV-Iが非T細胞以外の滑膜間葉系細胞に親和性を有することを始めて明らかにしたものである。 2)HTLV-I感染滑膜細胞をクローン化し、HTLV-IのtaxをコードしているmRNAの発現及びコア蛋白等の存在も明確にした。 3)滑膜細胞プロウイルスの塩基配列を分析し、成人T細胞白血病患者、HAM患者の由来のそれと比較した結果、HTLV-Iにほぼ完全に一致するものや、ある部位が欠損してるものも存在することが見い出され、HTLV-I類縁のレトロウイルスの遺伝子産物の存在が強く示唆されている。 4)また、これらのtransgenic miceの滑膜をクローン化し、その性状を解析したところ、ヒトのHTLV-I感染滑膜細胞とその機能、形態において共通した特徴がみられた。滑膜培養上清中のサイトカイン(TNF,IL1,IL2R,IL6,PDGF)等を測定し、慢性関節リウマチ、変形性膝関節症の患者と比較し、RAにおける滑膜増殖のメカニズムをサイトカインの異常産生とウイルス感染関連が明確にされきていいる。 5)岩倉らとの協同研究により開発されたHTLV-Itransgenic miceが確立された。 6)これらの研究成果は、少なくともHTLV-Iの構成遺伝子の1つであるTax遺伝子が滑膜増殖遺伝子の1つである事を明らかにしたものであり、滑膜細胞の分化・増殖あるいは細胞死(apoptosis)の機序を解明し、ひいては慢性関節リウマチの発症を解明する大きな手掛りを得たものである。
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