重症筋無力症はアセチルコリン受容体を自己抗原とする自己免疫疾患の一つであり、胸腺腫などの胸腺異常が高率に証明されるがその原因は不明である。申請者らはこれまで主に電顕の成績より重症筋無力症の培養胸腺細胞にレトロウイルス粒子が検出されることを報告してきた。今回、本ウイルスの実体を明らかにすべく、ヒトT細胞株への感染実験にて樹立したウイルス産生株を用いてウイルス遺伝子のクローニングを行ない、平成3年度に引き続き、得られたcDNAの解析を行なった。 精製したウイルス粒子よりcDNAを合成し、クローニングを行ない、500-2.5kbのcDNAクローン(20数個)を得た。これらを探索子として様々な細胞DNAとの間でSouthern分析を行ない、その特異性を詳細に検討した。dideoxy法にて400-1.2kbの塩基配列を決定し、その構造を分析するとともに、EMBLデータベースへの照合よりホモロジーの探索を行なった。 2.5kbのcDNAクローンpHT142はウイルス産生細胞DNAとともに、ヒト胸腺腫細胞DNAとの間で13例中5例にハイブリダイゼーションが観察された。対照細胞やヒト胎盤DNAとの間ではハイブリダイゼーションが認められなかった。EMBLウイルスデータベースに照合させたところ、7つのcDNAクローンのいずれもが、HIV-1やEIAV(equine infectious anemia virus)と比較的高いホモロジーを示した。 以上より、得られたcDNAクローンは細胞由来でなくヒト胸腺腫に存在する遺伝子であることが判明した。今後、全構造の解明とともに他のヒトウイルスと比較を行ない、重症筋無力症の胸腺異常へのレトロウイルスの役割について研究をすすめていく予定である。
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