研究概要 |
平成3年度では加齢に伴う内皮細胞機能変化に関する実験を主として行った。具体的には内皮細胞の増殖能や再生能及び接着能の面から加齢の影響を検討した。また刺激に対する細胞の反応性に及ぼす加齢の影響に関してはATPなどの化学的刺激に対する内皮由来平滑筋弛機因子(EDRF)の分秘の面から検索した。これらの実験から得られた知見としては初代培養から継代をくり返した多数のcell lineの中でCPD(累積細胞分裂回数)が50を越えると増殖能が著明に低下して来るcell lineが認められたがこうしたcell lineでは内皮層を一部剥離した後の遊走・再生能が低下する傾向が認められた。またコラ-ゲン、フィアブロネクチン,ラミニン,ファイブリノ-ゲンなど各種の細胞外マトリックスに対する接着能に関しては加齢に伴いとくにラミニンに対する接着能が変化し,ラミニン上での細胞のspreadingが亢進している所見が認められた。このことから内皮細胞のラミニン受容体の発現あるいは機能が加齢により何らかの影響を受けた可能性が示唆された。またATP刺激に対するEDRF放出反応が加齢細胞で低下する傾向が観られ、このような細胞においてはATP刺激の際の細胞内カルシウム上昇反応が若年細胞群に比較して抑制されていることが分かった。EDRF放出が細胞内カルシウム濃度に依存する事実を観察しているがこの事を考え併せると加齢に伴う内皮のEDRF放出反応の低下傾向は刺激に対する細胞内カルシウム反応が抑制されているためである可能性が考えられ,加齢により細胞内情報伝達系に何らかの異常が生じているのかも知れない。この点は平成4年度においても引続き検討を加える予定である。
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