研究概要 |
陳旧性心筋梗塞患者30例と健常者30例を対象に,体表面加算平均心電図を施行し,周波数分析の結果と心室頻拍・心筋梗塞の広さとの関連を検討した。体表面87誘導の心電図をVCMー3000を用いて160秒間記録し,NEC9801により加算平均処理したのち,ミニコンVAXを用い,QRS部分を高速フ-リエ変換し,0〜25,25〜40,40〜80,80〜150,150〜250Hzの各周波数帯域で逆フ-リエ変換した。それぞれ再合成波形の絶対値をとりQRSの面積を求めた。心筋梗塞群では,正常例と比較して,25〜40,40〜80,80〜150Hzの成分が有意に減少していた(P<0.01)。さらに,心筋梗塞群の中で心室頻拍を有する10例は,有しない20例に比べ,40〜80,80〜150Hzの成分が有意に減少していた((P<0.01)。さらに,核医学的左室造影による左室駆出率は,40〜80,80〜150Hzの最大値と正の相関があり,心筋シンチグラムによる梗塞範囲の大きさ(extent score)は,負の相関があッた。以上より,心筋梗塞ではQRS部分全体では高周波成分が減少し,心筋梗塞の大きさ,心室頻拍と関連することが示唆された。 また,犬左前下行枝を結紮し,実験的に心筋梗塞を作成し,一ケ月後に心表面60点の心電図を記録し,臨床例と同様に周波数分析を施行した。心筋梗塞群6例では,対照群6例に比し,左前下行枝領域のQRS部の40〜250Hzは有意に減少した(P<0.01)。 臨床例・犬実験モデルで,体表面および心表面において心筋梗塞により,QRS部の高周波成分の減少が認められた。この高周波成分の減少は,心筋梗塞後のscarにおける電気的活動の減少を反映すると考えられ,興奮伝播性の低下,興奮波の分裂などに関連して,心室頻拍のsubstrateを示唆すると考えられる。
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