心筋症における抗心筋抗体の病因的意義を検討することを目的とし、心筋症発症マウス血清中の抗心筋自己抗体の解析を行った。4週令Balb/cマウスにEncephalomyocarditis(EMC)ウイルスを接種し、心筋災を作製し、ウイルス接種4.7.10.14.21.28.90日後に血清を採取した。血清は同系正常マウス心臓の凍結切片と反応させ、2次抗体としてFITC標識抗マウス免疫グロブリンを使用し、蛍光抗体間接法を実施した。IgG型抗心筋抗体はウイルス接種4日後より出現し、21日目に最高値に達し、その後抗体価は減少したが、90日後でも認められた。抗心筋モノクロ-ナル抗体の作製のため、自己抗体も最も高値を示す21日後に脾臓を摘出し、脾細胞を骨髄細胞と細胞融合し、ハイブリド-マを作製した。倍養上清を正常マウス心臓の凍結切片を用いた蛍光抗体間接法によりスクリ-ニングした結果、2種のクロ-ンが得られた。クロ-ンIA5は心筋細胞を太い横紋状に染色し、クロ-ンIB5は血管内皮細胞を微線細維状に染色し、これらの抗体はいずれもIgMであった。各クロ-ンはBalb/cマウス腹腔内に接種し、その腹水から液体クロマトグラフィ-により抗体を精製した。精製したモノクロ-ナル抗体をウエスタンブロック法により自己抗原との反応性を検討した結果、クロ-ンIA5はマウス心筋ホモジュネ-トでは分子量約20万の心筋蛋白と反応することが明らかとなり、また、精製ミオシンを用いた研究により心筋ミオシンと反応するモノクロ-ナル抗体であることが明らかとなった。クロ-ンIB5は、心筋抗原と明らかな反応は見られず、内皮細胞と反応し染色パタ-ンからは細胞骨格のとくに中間線維を認識するモノクロ-ナル抗体と考えられた。本研究により、ウイルス性心筋災から慢性期の拡張型心筋症類似の病像への進展する時期に抗ミオシン抗体の出現することが明らかとなり、本症の発症病理との関連が考えられた。
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