研究概要 |
基礎的研究・心機能部門:lisinopril及びnifedipineの15週齢SHRへの20週間投与において,対照のSHRに比し有意の降圧と左室肥大の退縮を認めた。左室機能および腎機能は対照に比し有意の差を認めなかった。またlisinopril投与群では血漿心房利尿ホルモンは低下しnifedipine投与群では血漿レニン活性は低下し血漿ノルエピネフリン濃度は両薬剤投与群とも変化はなかった。以上,lisinopril及びnifedipineによる退縮後肥大心の左室機能は正常に保たれ、また左室肥大の後縮には血圧低下以外に神経体液性因子の関与が示唆された。これに対し,15週齢SHRへのnifedipineの4週間投与では有意の降圧にかかわらず左室肥大の退縮は認められなかった。このnifedipineの短期の投与においては長期投与と異なり血漿ノルエピネフリン濃度の有意の増加を認め,左室肥大の退縮が見られない理由の1つに交感神経系の亢進の関与が示唆された。形態部門:15週齢SHRにlisinoprilを20週間投与し,左室肥大を退縮させ,薬物非投与のSHRとWKYを対照として左室心筋の微細構造を電顕的(透過型と走査型)に観察した。薬物非投与のSHRではWKYと比べ心筋細胞の横径と長径が増大し,横枝の増加と側・側結合の数の減少を認め,またミトコンドリアは変性し筋原線維の細胞内分画は減少し,間質増殖を認めた。lisinopril投与のSHRでは薬物非投与のSHRより心筋細胞の横径と長径が共に縮小し同週齢のWKYと有意差はなく,横枝数が有意に減少し,側・側結合数の減少は軽減した。またミトコンドリアの変性像は改善し,間質増殖は軽度で,筋原線維の細胞内分画はWKYのそれと有意差はなかった。lisinoprilによる肥大心筋の退縮過程は,肥大心筋細胞のproportionalな縮小と間質増殖の減少のほか心筋細胞変性の改善,またSHR肥大心筋に特徴的な心筋細胞の結合様式変化の抑制であり,これらは正常心筋への復元を示唆する所見と考えられた。
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