研究概要 |
ヒトの色素細胞系病変部の皮膚生検組織中より抽出された蛋白質のうち、色素性母斑や老人性色素斑などの良性組織におけるのと比べて悪性黒色腫で検出される血管平滑筋型αアクチンが減少していた。このαアクチンの組織中での発現細胞を同定するために、モノクロ-ナル抗平滑筋型αアクチン抗体を用いた免疫組織化学染色を行った。色素性母斑や皮膚線維腫などの良性組織ではαアクチンが小動脈壁の平滑筋細胞や毛細血管の周細胞に豊富に検出され,間質の筋線維芽細胞にも少量検出された。悪性黒色腫では黒色腫細胞にほとんど発現はみとめられず,腫瘍組織血管にもごくわずかしかαアクチンが検出されないのみならず,症例によっては腫瘍周辺部の既存血管と思われる血管にも反応が弱くαアクチンの減少を示していた。従って正常組織や良性病変部では本来αアクチンを発現する細胞に対して,悪性黒色腫が何らかの抑制作用を持つ場合があることが考えられた。そこで悪性黒色腫細胞のこのような細胞に対する作用を検討するために,ヒト色素性母斑から遊走法で培養した細胞にヒト悪性黒色腫細胞株Mー14の培養上清を加えた。対照の線維芽細胞培養上清を加えた場合豊富なαアクチンの発現が認められたのに比べ,Mー14培養上清はαアクチン発現に抑制効果を持つことがわかった。ウシ網膜より培養した網膜毛細血管周細胞に対しては、Mー14培養上清はこのような抑制効果を示さず,種特異性あるいは臓器特異性が存在する可能性も考えられた。今後はこのような作用を持つ因子をさらに詳細にその特徴を調べるとともに,ヒト生検組織中のαアクチンの計量化を試み,予後などとの関連性を検討する予定である。
|