研究概要 |
コカインは局所麻酔薬として汎用されている医薬品であるが、連用やその後の断薬により中毒様症状が発現する。一方コカインの乱用は若年化傾向を示しており、大きな社会問題となっている。しかし、コカイン中毒の発症機構は逆耐性現象なども含めて、未だ十分な解明はなされていない。今回、簡便かつ短時間の、 ^<11>C標識コカイン合成法、HPLCを用いた分離精製法の検討を行い、得られた ^<11>C標識コカインの臓器分布並びに脳内分布をマウスを用いて検討した。 ^<11>C標識コカインは、ノルコカインの ^<11>CH_3Iを用いた直接Nーメチル化により、放射化学的収率47ー58%、放射化学的純度99%以上、放射活性6mCi、比放射能22Ci/mmolとその動物体内の局在性検討に充分な収率にて30分内に合成された。 ^<11>C標識コカイン尾静脈投与マウスの臓器分布を検討すると、肺、腎及び肝に高い集積が認められた。また、そのloadingーdoseの検討より、投与量0.4ng〜4μg/headの範囲において用量依存的な取り込みが認められ、いずれの用量においても腎、脳では血液に対して高値を示し、その集積比は一定であった。次に、脳を、前部大脳皮質,線条体,後部大脳皮質,海馬,中脳,視床下部,小脳,延髓の8部位に分画し、各部位への ^<11>C標識コカインの集積度を検討すると、有意な部位差は認められなかった。しかしながら、その集積は5分以内に最大を示し、15分以内に減少した。コカインの興奮作用は、投与後短時間内に発現するが、集積時間の短さは、その一因と考えられた。さらに逆耐性モデルマウスの脳内分布を検討すると、脳内の集積は5〜15分にピ-クを与え、集積パタ-ンに変化が認められた。このコカインの脳内集積性の変化は、神経細胞膜上のコカイン感受性成分、あるいは細胞膜自身等の変化によるものと考えられ、これらコカイン集積性の変化と中毒や逆耐性現象の発症との関連性に興味が持たれた。
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