霊長類前脳においては様々な神経ペプチドを含む神経網が発達している。このような領域、つまり大脳皮質、辺縁系や線条体におけるニューロンのペプチドやタンパクの合成あるいはその代謝はドーパミン神経機構の強い影響下にある。このドーパミン性神経調節を修飾する薬剤、例えばドーパミンレセプター遮断剤であるハロペリドールなどは、臨床的には抗精神病剤として作用する一方、線条体、側坐核、前頭前野皮質においてペプチド濃度を変化させることが知られている。ところが、現在このような領域における抗精神病剤の薬理学的メカニズムは解明されていない。そこで今回、私達は分子生物学的方法を用い、抗精神病剤のドーパミン神経調節に対する影響をペプチドやレセプターmRNA等のレベルで調ベ、また個々のニューロンにおけるc-fosプロトオンコジーン発現に対する影響についても検討した。 ハロペリールやクロザピンを慢性投与し、線条体ニューロンにおいて様々なペプチドmRNA発現をinsitu gybridization法にて検索した結果、エンケファリンを含め一部のペプチドmRNAの発現に変化が認められた。さらに、ハロペリドール、クロザピンの急性投与実験において、ラット大脳辺縁系領域、つまり側坐核、前嗅核、嗅結節、内側前満前野、外側中隔核などに存在する多数のニューロンで、即早期遺伝子c-fos発現の増加が認められた。このことから、このよすなラット前脳領域は、両抗精神病剤の薬理効果に関与する重要な神経系であると考えられた。抗精神病剤が中枢神経系ニューロンへ及ぼす影響について調べたが、今後その薬理機序に関する分子生物学的レベルでの理解が益々深まるものと思われる。
|