移植臓器は、通常冷却下に保存され、その限界は保存液によって異なる。前年度の研究からEC液に比べてUW液が明らかに勝れていたがそれでも24時間が保存の限界とされる。そこで、この時間の延長を意図して保存期間中に常温下潅流を挿入した。すなわち、1群は摘出ラット肝を、36時間、0℃のUW液に保存した後、肝実質細胞と非実質細胞の生存活性(膜保存性)、肝実質細胞の蛋白合成能、ミトコンドリア機能を検討した。2群は17時間の同様な保存の後、今回購入した臓器潅流装置を用いて、UW液又は人工血液で60分間潅流した後再び18時間、冷UW液に保存した後同様な点を検索した。その結果、UW液潅流では、1.細胞生存活性は、実質細胞、非実質細胞とも改善や悪化はみられなかった。2.蛋白合成能は、潅流群で高値を示したが有意ではなかった。3.ミトコンドリア機能は、呼吸調節、ATP生成能とも潅流群で有意に高値を示した。この改善は、冷却保存途中の潅流により、蓄積していた呼吸阻害物質の除去ができた結果で、ミトコンドリア自体の改善とは断定できない。4.肝細胞の蛋白合成能の改善はみられないが、ミトコンドリア機能の改善がみられることから、UW液による保存中の潅流には多少の保存時間延長効果が期待される。しかし、酸素運搬能を増加させるために、UW液の酸素分圧を異常に高くしたり、潅流量を過大にする必要があり、そのために肝の組織障害を惹起する危険がある。一方、人工血液を用いた群では成績にバラツキはあるがUW液の場合より潅流量が少なく、肝の諸機能が温存され、臓器保存時間の明らかな延長が期待された。 本実験はラット肝を用いたもので、潅流装置の大きさとのアンバランスがあって困難であったが豚肝では比較的容易で、その分野肝についてラット肝と類似の成績が得られている。
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