移植のための肝保存時間の延長を目的とする本研究では、先ず肝の生存活性を評価するより良い指標としてDNA損傷と修復、ミトコンドリア機能および高温負荷後の機能温存(温度抵抗性)の意義を検討した。次いで肝保存時間の延長策として、冷却保存中に常温潅流を挿入し、代謝老廃物の除去と組織の酸素化による活性化を試みた。以下に、ラット肝を用いたそれらの成績を示す。1.肝実質細胞の核DNA損傷は、EC液中では保存12時間で、UW液中では48時間から増大した。また、EC液中で48時間保存するとDNA損傷は修復されなかった。これは、細胞膜損傷からみた生存活性の変化に先行して認められ、より有効、鋭敏な生存活性の指標と思われた。肝の非実質細胞のDNA損傷は実質細胞のそれより先行してみられ、肝の保存期間を規定する重要な因子と考えられた。2.肝実質細胞ミトコンドリア機能はEC液でもUW液でも比較的良好に維持された。しかし、これらの肝細胞に40℃の高熱を負荷してからミトコンドリア機能を検索すると、EC液中では、UW液中保存に比べATP生成能は著明に低下した。これは、移植後の肝の機能発現と関連し、保存期間の良好な指標と考えられた。3.UW液中に冷却保存中、UW液で常温潅流を挿入したところ、肝実質細胞、非実質細胞とも生存活性の改善はみられなかった。また、肝実質細胞の蛋白合成能は潅流により軽度の改善がみられた。一方、ミトコンドリア機能は、潅流により有意にATP生成能が亢進したが、これは冷却保存中に肝内に蓄績した呼吸阻害物質の除去によるものと思われた。しかし、酸素運搬能の小さいUW液の潅流では流量が過大になり組織障害を惹起する可能性が示唆された。そこで、人工血液を用いて潅流すると、結果にバラツキはあるが潅流々量を低下させても機能が温存され、肝保存時間の延長が期待された。これらの実験を、豚肝およびその二分割肝を用いて検討中であり、同様な成績が得られている。
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