過年度において半導体レーザーを用いて顕微鏡下にラット腹部大動脈の吻合を行い、本法が開存率および組織学的な修復機転において手縫い吻合より優れていることを明かにし、またラット大腿静脈についても同様の検討を行い、手縫い吻合に比して開存率で同等、組織学的には優れていることを報告した。この実績を踏まえて人体において血液透析用シャント(動脈静脈吻合)作成に臨床応用し、動脈および静脈の吻合に有用であることを確認した。 今年度は当初の目的である半導体レーザーを用いたリンパ管の吻合に着手した。始め、動脈および静脈吻合の実験動物であるラットの後腹膜胸管を使い、この前壁を切開し3本の支持糸を掛けてこの間をレーザー吻合する手技を試みた。しかし、リンパ管壁が菲薄なため吻合に要する出力ではリンパ管壁全層の融解がおこり吻合が不可能であった。このため大型の実験動物として成犬を用い、その左頚部における胸管を対象に同様の手技およびリンパ静脈端側吻合を試みたが、いずれもリンパ管壁の菲薄性のために吻合に失敗した。次に成犬の後肢においてEvans blueの皮下注射によって染色したリンパ管をその鼠径部で検索し、リンパ管を横切して10-0血管縫合糸による支持を行い、この間をレーザー吻合した。リンパ管周囲の結合織を残し、これとともに吻合を行なったところ、吻合線の一応の閉鎖は得られた。しかし吻合直後の組織検索では、組織の固定方法に困難性があり組織切片の正確な切り出しが不可能で、このために組織学的な検討はいまだ不十分な状態にある。またリンパ管吻合部の長期的な開存性の検討のためには動静脈とは異なり、色素microsphereを用いるなど何等かの特別な工夫が必要となるであろうと予想される。このようにリンパ管の吻合に関しては今年度内の完結は得られず、今後の更なる検討を要する。
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