研究概要 |
下肢動脈自家静脈バイパス移植術後の晩期閉塞の本態について検索した。犬後肢に末梢抵抗の高い異常流れを作成し,大腿動脈自家静脈バイパス移植を行ない,移植片ならびに吻合部の治癒経過を観察した。 1.移植片では、移植後3日以内にvasa vasorum切離による虚血を来し,内皮細胞、内膜が剥脱した。移植後2週以内では、フイブリノ-ゲン,血漿の移植片壁内浸み込みが認められ,10ー14日目では、移植片の中膜平滑筋細胞は幼弱化して線維芽細胞の性質を帯びるようになり、平滑筋細胞Aーアクチン染色に対する染色性が低下した。外膜には、平滑筋細胞の性質を持つ線維芽細胞由来の細胞が認められた。1カ月以降では、内膜は平滑筋細胞の増殖により著しく肥厚し、6カ月以降では500μm以上に肥厚した。肥厚内膜はAーアクチン染色で濃染された。すなわち、移植静脈片の内膜肥厚の本態は、平滑筋細胞の異常増殖である。 2.末梢側端側吻合部では、吻合部のtoe,heel,floorで内膜肥厚がみられ,特にtoe部の肥厚が著明であった。移植後早期に吻合部に壁在性血栓が付着し、これに向って外→内へ、縫合糸に沿う裂隙を通って線維芽細胞の侵入が認められた。2週目には、壁在性血栓は膠原線維の増生によりほぼ器質化されたが,その過程で縫合糸に接して、血管内腔に直接開口し、肥厚内膜内に樹枝状に分布する新生血管が多数認められた。1カ月以降では、吻合部内膜肥厚は増強し、6カ月以降では著しい吻合部狭窄が形成された。吻合部肥厚内膜はAーアクチン染色で染色されなかった。すなわち、吻合部肥厚内膜の本態は,壁在性血栓が線維芽細胞の浸潤と膠原線維の増生によって器質化され、血管内腔に開口する栄養血管の新生を伴なうパンヌス組織であって、その形成機序は、移植片肥厚内膜の形成機序とは本質的に異るものであると考えられた。
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