63年度の一般研究(C)「心筋細胞内の過酸化脂質代謝を中心とした乳児期開心術における心筋保護の研究において、トルラ酵母を主原料としたセレン(Se)欠乏食で約2ヶ月飼育した成熟ラット(Se欠乏群)は、血清及び心筋内グルタチオンペルオキシダ-ゼ(GSHPx)活性の点で、生後8ー12日の乳児ラットと類似の状態を作ることが出来た。またSe欠乏群と普通飼料で飼育した成熟ラット(対照群)の摘出心を用いた実験で、Se欠乏群は対照群と比べ再潅流障害を起こし易いことを証明した。今回の実験では、このSe欠乏群を用い、心筋保護液にGSHPxを添加することで、心筋保護効果が改善されるか否かを検討した。(実験方法)摘出心をランゲンドルフ潅流装置に接続し、95%O_2、5%CO_2の混合ガスで酸素加した37℃modified KvebsーHenseleit液で潅流し、安定した後左房より13cmH_2Oで潅流するworking heart modelとし、15分後に心機能を測定し前値とした。次にSt.Thomas液、またはSt.Thomas液+GSHPx(6000単位/l)を55cmH_2Oの圧で2分間冠動脈に注入後、35℃60分間の心停止とした。その後再潅流を行った。15分間のランゲンドルフ潅流後、同様の条件でworking heart modelとし30分後に心機能を測定し(後値)、前値に対する回復率を求めて比較した。測定後心臓を液体窒素で瞬間凍結し、八木らの方法で心筋内過酸化脂質濃度を測足した。(結果)心拍数を除いて、左窒収縮期圧、大動脈圧、LVmax dp/dt、冠動脈血流量、心拍出量、一回心拍出量はGSHPx添加群は、非添加群と比べ有意に高値を示した。心筋内過酸化脂質濃度は、GSHPx添加群で有意に低値を示した。GSHPx投与時期の検討では、再潅流直前にGSHPxを投与した群では、心機能、心筋内過酸化脂質濃度ともにGSHPx非添加群と差が無く、GSHPxの心停止後の投与と比べ有意にあった。(結論)Se欠乏ラットでは心停止直後の心筋保護液へのGSHPxの添加は心筋内過酸化脂質を減少させ、心機能低下の抑制効果がみられた。
|