研究概要 |
1.ラット脳腫瘍モデルにおいてin vivoでのイノシト-ルリン脂質代謝(phosphatidylinositol turnover;PI代謝回転)、およびprotein kinase C(PKC)活性の測定法を確立し、腫瘍増殖における細胞内情報伝達機構を解明することを目的とした。ラット移植脳腫瘍モデル(C6 glioma)のautoradiographyでは1,2ー[ ^<11>C]diacylglycerolの取り込みが大脳皮質よりも高い集積を示した。本結果は,PI代謝回転が正常脳組織よりも腫癢組織で活発であることを意味し、細胞内情報伝達系の量的な異常をきたしていることが考えられる。また同じ細胞であるC6glioma培養細胞系では中枢神経系とは異なる1,2ー[ ^<11>C]diacylglycerolの代謝が同時に存在することも明らかになった。すなわち増殖細胞では質的にも1,2ー[ ^<11>C]diacylglycerolの代謝が異なっていた。さらにPKC活性を反映する[ ^3H]PDBuーbindingでは大脳皮質よりも低いことが報告されているが、本結果と合わせればPI代謝回転ーPKC系の解離が強く示唆される。この所見は腫瘍増殖に関する細胞内情報伝達系の特殊な局面とも考えられ今後より詳細な検討を要するものと思われる。 2.異なる増殖因子によってC6glioma培養細胞系でのPI turnoverーPKC系が特異的反応を示すことを明らかにした。PDGFとEGFとでは明らかにPI代謝回転の応答が異なっていた。PDGFによる刺激応答ではphosphoinositideとの連携よりもphosphatidylcholineとの連携がより強くPI代謝回転ーPKC系の連環の乖離を示唆した。これはphorbol dibutyrate(PDBu)による刺激応答と類似していた。すなわち1,2ーdiacylglycerolの代謝にはもう一つのmajor pathwayが存在することが明らかになった。おそらくphosphoinositidephospholipase C(PIーPLC)とphophatidylcholinephospholipase D(PCーPLD)の"Dual major pathway"によりsignal transductionが高次のlevelでcontrolされていると結論できる。
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