麻酔薬をはじめとして多くの薬物が、脳血管に作用して脳血流量を変化させることが知られている。本研究課題は、1)脳血管を生体内顕微鏡によって直視下に観察することによって、脳の微小循環に対する麻酔薬やカルシウムチャネルブロッカーの影響、そして、2)脳・脊髄浮腫と言った病的状態に於ける反応性の違いを検討し、薬物感受性制御の一端を明らかにすることであった。 研究者が、本研究によって研究費の配分を受けた直後に、筑波大学から岐阜大学に転勤となったため、研究設備の整備に時間がかかったこと、当初予定した研究対象としたネコの入手が困難なため、イヌに代えなければならなかったことなどのため、研究が大きく遅れた。従って、これまでの研究は種々の薬をネコの脳クモ膜下腔に投与して脳軟膜血管の微小循環を生体内顕微鏡をもちいて観察し、薬の作用機序を検討することに限定した。 1)コカインは脳の軟膜の微小動脈血管を濃度依存性に拡張し、その効果はアドレナリンβ受容体遮断薬のプロプラノールの抑止された。 2)カリウムチャンネル(K-channel)オープナーであるニコランジルは、脳軟膜の動脈・静脈のいずれの血管も拡張させ、この効果はメチレンブルーによって抑止された。 3)エンドセリンの脊髄クモ膜下投与は、脳血流量には影響しなかったが、脊髄血流量を減少させ、この効果はニカルジピンによって抑制された。 4)アドレナリンα2受容体作動薬であるデキサメデトミジンは、脳血管を収縮させたが、この作用は遮断薬であるヨヒンビンによって抑止された。 以上の生体内顕微鏡を用いての本研究結果は、今までの摘出末梢血管を用いてのin vitro研究によって得られた薬物の血管作用機序に関する知見と一致するが、反応性はかなり異なっていた。脳血管と他の末梢血管の薬物に対する反応性、及び感受性を同一モデルによっての比較ではないが、脳血管は感受性は他の血管と異なることが明かとなった。
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