研究概要 |
循環の主目的は毛細血管壁を介して組織に酸素その他の栄養を供給し代謝産物を除去することにある.近年のファ-マコキネティックスの発展により脈管の内外での物質移動過程がようやく注目を浴びるようになってきた.脈管内物質の移動は,基本的には水分透過係数や拡散係数などの物理的な性質により規定されるが,ショックなどのストレスが加わると血流再分布,局所の酸素濃度低下,水素イオン上昇,その他の血管作動性活性物質により変動を受ける.従来の研究ではこれらの現象を顕微鏡標本で捕らえてきたが,水分透過係数や拡散係数などの生理的パラメ-タを定量的に測定し,変動の範囲を明らかにした研究は見あたらない.これらの諸条件での水分分画,水分透過性,物質拡散速度,血管床面積,潅流速度などの独立変数を明らかにされなければならない. 本年度では,主として測定装置の開発にあたった.血液電解質濃度の変動は非常に少なく恒常性を保つが,一方尿では相当大きく変動する.これは尿の水分濃縮能力による変化もあるが,積極的に生体内恒常性を保つために働いているためである.我々は腎臓における濃縮能をマンニト-ルでブロックし,経時的に尿量や尿組成を計測する装置を開発した.平行して血液マンニト-ル濃度を測定するマンニト-ルデハイドロゲナ-ゼを乳酸菌より抽出精製する技術を検討している.マンニト-ルは生体に安全に投与でき医薬品として利用されているが,決して細胞内に入ることは無く,腎臓の排泄分を補正すれば細胞外液量の計測トレ-サとしての利用が期待できる.放射性同位元素であれば臨床応用に相当の困難が伴うがマンニト-ル濃度の計測で毛細血管床の拡散係数の測定や細胞外液量の計測が可能となると強力な術中モニタ-としての応用が期待される.
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