研究概要 |
昨年度までの研究成果としてヒト子宮内膜に対してepidermal growth factor(EGF)がさまざまな生物作用を発揮することを明らかにしてきた.例えば子宮内膜のグリコ-ゲン産生を調節したり,prostaglancinやtissueplasminogenの分泌を促進することなどである.これらは妊卵の着床機転に関わる物質であり,しかも子宮内膜にはEGF様活性とEGF受容体が存在することを考慮するとEGFはputocrine/paracrine機序で子宮内膜の最終的な機能ともいうべき妊卵に着床の場を提供する過程に密接に関係していることがうかがえた.また子宮内膜のEGF受容体は性周期により変動することをすでに見い出しているが,今年度は細胞培養系を用いて,子宮内膜のEGF受容体がprogeseroneやcortisolによりpositiveな制御を受けていることを示し,さらにestrogenはこれらのホルモンの作用を増幅するように作用していることを明示し発表した.性ステロイドホルモンは直接子宮内膜に作用するがその作用機序の一部にはEGF受容体量を調節することによりEGF作用を修飾するという可能性を提示したことになる。 子宮内膜症は難治性の不妊を伴う病態が未解明の疾患である。その頻度も原因不明の不妊婦人の50〜60%に共存するといわれ本疾患合併不妊の治療指針の確立は喫緊の課題となっている。我々はまずその不妊機序解明の糸口として初期の生殖過程が進行する場である腹腔内の環境の分析を行ってきたがinterleukin1やtamornecrosis factor(TNF)などのcytokineが増量していることを明らかにした.次の興味としてこれらのcytokineが不妊にいかに関わるかであるが今回TNFが卵管と共培養したマウス2細胞期胚の発生を抑制することを明らかにし,またin vivoでcytokineを腹腔内に注入すると妊卵の着床の抑制がみられた。以上より子宮内膜症合併不妊における腹腔内のcytokineの関与を示唆し,それを除去することが生殖能の改善の有望な手段となり得ることを提起した。
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