研究概要 |
前年度に行ったヒト胎児肺の発達過程の病理形態学的および細胞生物学的検討によって、肺胞と間質の発育・成熟過程は異なることが示唆された。そこで、本年度は、正常胎児における生理的な肺の発達過程を評価する非侵襲的な指標を開発することを目的として、超音波M-mode法を用いた胎児肺の他動的変形率の妊娠の進行に伴う推移と組織学的所見との関連を検討した。対象は肺低形成のない妊娠24-40週の胎児179例とした。組織検体には対応する妊娠週数の胎児合併症を認めない死産児20例と出生後1日以内の新生児死亡20例の計40例の肺を用いた。胎児肺の他動的変形率の検討は、心四腔断面の房室弁直下でM-mode法を用いて胸郭内壁と心外膜との距離を求め、心拍動一周期毎に得られる測定値の最小/最大距離の比を用いた。組織学的所見の検討は、肺胞の発達の指標として呼吸細気管支から中隔・胸膜への垂線上の肺胞数を計測するRadial alveolar count(RAC)、肺間質の発達の指標としてRACの設定線上に占める肺間質の割合を用いた。その結果、1)胎児肺の他動的変形率は妊娠24-28,29-32,33-36,37-40週で、0.86±0.054,0.83±0.069,0.79±0.074,0.75±0.057で、妊娠28と36週に変極点を示し、妊娠29週以降有意に増加した。2)RACは妊娠24-28,29-32,33-36,37-40週で、2.1±0.6,2.8±0.7,3.1±0.5,3.5±1.0で、妊娠33週以降有意に増加した。3)肺間質の割合は、妊娠24-28,29-32,33-36,37-40週で、59.4±10.4%,48.5±8.9,36.0±6.0%,26.2±6.6%で、妊娠29週以降有意に減少した。以上より、超音波M-mode法で肺の他動的変形率を測定することによって、ヒト胎児の生理的な発達過程の非侵襲的な評価が可能であること 本指標の妊娠週数に伴う推移は組織学的な肺間質の発達過程と関連することが明らかとなった。
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