研究概要 |
複合糖質は細胞相互の認識やレセプタ-としての機能を有し、癌化に伴いその糖鎖構造が変化することが知られている。本研究では女性性器を対象として、内分泌環境の変化と複合糖質の関係を解明することを目的とし、本年度は以下のような新たな知見を得た。1.胎盤絨毛の妊娠経過に伴う糖脂質の変化は、酸性糖脂質で興味ある結果が得られた。即ち胎盤絨毛の主要な酸性糖脂質は、GM_3とそれよりも移動度の小さい糖脂質が薄層クロマトグラフィ-(TLC)上で検出され、セラミド部分にハイドロキシ脂脂酸を含むII型糖鎖であるシアリルパラグロボシドであることが判明した。2.子宮体内膜の糖脂質を解析したところ、中性糖脂質はグロボ系列であるCMH,CDH,CTH,globosideが検出された。分泌期内膜には通常の糖脂質よりも分子量が増加し、セラミドを構成する脂肪酸及びスフィンゴシンがそれぞれ水酸化されたハイドロキシ脂肪酸またはフィトスフィンゴシンよりなるCMH,CDH,CTHが存在することが確認された。酸性糖脂質には硫酸基を持つスルファチドが存在し、増殖期内膜に比べ分泌期内膜において顕著に増加することが判明した。3.我々が作製したモノクロ-ナル抗体MSNー1は中性糖脂質上のルイスb関連糖鎖を認識し、その認識抗原の局在が子宮体内膜の癌化に伴い増加することに注目し、体癌の新たな補助診断法の確立を試みた。体内膜細胞を蛍光抗体法により染色し、フロ-サイトメトリ-を用いMSNー1陽性細胞を測定することにより、正常細胞と癌細胞との鑑別の可能性を検討したところ、正常細胞と癌細胞において反応性の差が認められた。更に体内膜細胞より糖脂質のみを抽出し、TLC上で免疫染色を行ったところ、正常細胞の糖脂質とは殆ど反応せず、体癌細胞の糖脂質とは明らかに染色される症例が多かった。以上のことより、両方法は正常内膜細胞と体癌細胞の鑑別に有用な指標となる可能性が示唆された。
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