研究概要 |
多発硬塞性痴呆(multi infarct dementia:MID)における視機能障害を理解するため12名のMIDと6名の健常対照群において視機能と脳グルコ-ス代謝量を検討した。12名のMID患者のうち8名は少なくとも片眼で0.2以上の視力を有していた。また半盲は4名に認めた。12名全員が立体視テスト、図形転写テスト、石原式色覚表などにより検出される何らかの高次視機能の障害を示していた。脳グルコ-ス代謝量はフルオロデオキシグルコ-スをトレ-サ-としてポジトロン断層法により測定した。MID群と正常対照群の脳グルコ-ス代謝量は右側でみると第一次視覚領において5.9±1.9mg/100g脳/秒(以下同様)対9.3±1.8であり(p<0.01)、視覚連合領でも5.5±1.4対9.4±1.7(p<0.01)と共に低かった。MID群を少なくとも片眼視力が0.2以上の視力保持群(n=8)と両眼視力障害群(n=4)にわけて比較すると、右第一次視覚領では視力保持群6.6±1.8対視力障害群4.5±0.9と後者に低下が認められた(p<0.01)。しかし視覚連合領では視力保持群5.8±1.3視力障害群4.4±0.6であり有意差を認めなかった。半盲例では各例共第一次視覚領において対側の代謝低下を認めた。これらの結果から、多発硬塞性痴呆では視覚連合領が特異的に低下を示す“視覚症状を伴うアルツハイマ-病(Kiyosawa et al.:Ophthalmulogy 96:1077〜86,1989)とは異なり、視路から第一次視覚領を経て視覚連合領に広範に分布する病変が視覚障害の原因となっていることが考えられた。
|