研究概要 |
唾液中には50種類以上の酵素,免疫抗体および細胞活性因子などが含まれている。これらの物質は,総合的に反応し口腔内を一定の環境に維持している。しかしこれらの物質の多くは唾液腺を構成する種々の細胞のうちどの細胞において合成され分泌されるかは,分っていない。また腺房細胞から分泌されることが分っている物質も細胞内における合成過程の詳細は明確でない。平成2年度は,唾液中からの物質の抽出が比較的簡易なヒトの唾液腺における,アミラ-ゼ,アグルチニン,プロリンリッテプロティンおよびヒスタチンの細胞内の局在について細胞化学的に検索した。当該年度はスナネズミの唾液腺よりアミラ-ゼおよびペルオキシダ-ゼをカラムクロマトグラフィ法を用いて抽出製精し,電気泳動法を用いて純度のチェックを行った。これらの酵素蛋白に対するポリクロナ-ル抗体を作製し,免疫細胞化学的方法を用いて腺房細胞内の局在を観察した。アミラ-ゼは,耳下腺腺房細胞のゴルジ槽,TNN(Trans Tubular Network)及び分泌顆粒に反応が観察された。分泌顆粒内の反応は中心部の電子密度の濃い部分に認められたが周辺部の低電子密度の部分には認められなかった。この所見は市川ら(1989)の報告と同じ結果であった。しかし顎下腺腺房細胞の分泌顆粒内反応は,顆粒の網状構造の高電子密度の部位に反応産物が認められた。ペルオキシダ-ゼは耳下腺及び顎下腺ともに腺房細胞の粗面小胞体,TNN及び分泌顆粒内に反応産物である金粒子が認められた。しかしゴルジ槽内の反応は弱く判定は困難であったが,この結果は細胞化学的反応結果とほゞ一致することからヒトの唾液腺腺房細胞において観察されたアグルテンの免疫細胞化学的反応結果と酷似している。すなわちスナネズミの唾液腺腺房細胞においても,糖蛋白質の合成過程におりてゴルジ装置を経由しない合成経路が存在するものと推察出来る。
|