チタン合金が耐蝕性にきわめてすぐれており、人体に対する安全性が高いことから歯科用から医療用に至るまで幅広い応用が期待されている。歯科材料としては寸法精度や複雑な形状のものが要求され、精密鋳造が必要不可欠であるが、チタンは元来は活性な金属であり、高い温度では酸化され易く、溶解中に酸素や窒素と反応や吸収が起こり易く、鋳型材と反応し易いなどの問題がある。チタンの鋳造は、これまでに主に埋没材側から研究が進められてきた。しかし純チタンは融点が約1670℃と高く、埋没材に触れると瞬間的に凝固するため鋳造欠陥を生じ易い。これを改良するためには融点を下げるなど、合金側から改良する必要があると思われる。合金化すると、融点を下げるばかりでなく、機械的性質も改良することができる。この研究では歯科鋳造に最適で、しかも機械的特性のすぐれたチタン合金の開発を行なうことを目的として研究を行った。 チタン合金の開発を進めていく上で最初に問題となったのは、使用するチタンによって合金の性質が大きくばらつくことである。そこで純チタン鋳造体の力学的性質に影響を及ぼす因子について、インゴットの種類及び溶解雰囲気の影響について調べた。また、鋳造体の力学的性質に及ぼす不純物の影響についても検討した。その結果材料中の不純物や溶解雰囲気のチタンの力学的性質への影響についての基礎的データが得られた。これらを基礎としてチタン-ジルコニウム合金、ニッケル-チタン合金の研究を行った。チタン-ジルコニウム合金は生体適合性に優れているが、擬似体液中での表面変化の状態は純チタンの場合と若干異なることが判明した。ニッケル-チタン合金は融点は1300℃付近で純チタンよりも、400℃近く融点が低いため、鋳造が容易でリン酸塩系埋没材を使用しても鋳造体は形状記憶効果や超弾性という特殊な機能を示した。
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