ラットの顔面に疼痛刺激を加え、三叉神経脊髄路核尾側亜核(TNC)における各種ペプチド前駆体mRNAの発現を観察したところ、preprogalanin(PPG)、preproenkephalin A(PPE)、preprodynorphin(PPD)、prepro-tachykinin(PPT)の各mRNAが刺激後6時間をピークに刺激側TNC辺縁層で増加した。また転写調節因子のc-fos、NGFI-A、NGFI-Bの各mRNAもまた疼痛刺激によりTNCの辺縁層で刺激後2時間をピークに増加を示した。このことより、TNCにおいてgalanin、enkephalin、dycorphin.tachykininが痛覚伝達、あいはその修飾を行い、さらにこれらの転写調節をc-fos、NGFI-A、NGFI-Bの産物が行っていることを示唆した。 また、PPD、PPTmRNAとFos様タンパクが刺激側TNCのみならず反対側TNCでもその増加を認め、三叉神経系の侵害情報が反対側のTNCにも伝達されることを示唆し、Fos様タンパクが三叉神経I枝領域への刺激によりTNCの腹側、III枝領域への刺激によりTNCの背側、II枝領域への刺激によりそれらの中間領域で増加し、侵害情報が刺激部位によりTNCの異なる部位に入力されることが明らかとなった。 グルタメート生成酵素であるグルタミネースの三叉神経系における分布を観察したところ主知覚核、脊髄路核吻側亜核、TNCに分布し、さらにTNC辺縁層のニューロンは視床に投射することが明らかとなった。このことより、三叉神経を介する知覚伝達系において、その二次ニューロンの多くはグルタメート作動性であると思われる。また、グルタメートリセプターのNMDAR_1、GluR_5の各サブユニットmRNA、およびGABA_Aリセプターのβ_2、γ_1、γ_2サブユニットmRNAが三叉神経節に存在することが明らかになり、脊髄路核においてグルタメートやGABAが一次ニューロンをpresynapticに制御していることを示唆した。
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