筋小胞体について短鎖の脂質を用いて脂質置換処置を施行とすると脂質層の70-80%が置換されCa-ATPaseの分子内振動が上昇し、同時に活性の低下が生じた。分子振動の増大を許すような微細構築の変化はATPの分解能率をも低下させるものと思われる(1)。高度不飽和燐脂質を用いて置換するときも脂質層の粘性は低下し、分子内振動が僅かに増大して、ATP分解活性が低下した(2)。脂質過酸化にともなって、細胞内の燐脂質分解酵素が作用し易くなり、リゾ燐脂質を産生すると考えられる。筋小胞体のリゾ燐脂質を加えると脂質層の粘性とATPase活性は低下した。この時にも膜蛋白の動的微細構造が変化しているものと推測される。運動の影響の検討として、ラットに錘りをつけて三時間遊泳させた後心筋ミトコンドリア(Mt)を採取して分析した。このときMtの脂質量は約50%も減少している事を見いだしたが、脂質層の粘性ならびに脂質分子の揺動角には対照群に比して差がなかった。この時、燐脂質、コレステロールとも同程度に減じており、両者の比は変わらなかったので、燐脂質の逸脱にともなってコレステロールも離脱するとみられる(3)。このため運動後の膜の粘性は対照に比して差が起こらないのであろう。この運動実験に先立って呼吸系の補酵素であるCoQ_<10>を前投与しておけば燐脂質の減少は有意に軽減されること(4)、また燐脂質の回復には数十時間を要することを確かめた(投稿中)。心筋内の加令蓄積物質については、尚解析を必要とするが、定法にしたがって採取される蛍光物質の中の分子量数百ダルトンと言う小部分が発光に関与しており、其の部分の振動の時定数はサブナノ秒に過ぎないことが推定された(5)。
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