カルデスモン(CaD)は平滑筋の細いフィラメントの構成成分のひとつであり、ラッチ収縮(ミオシン軽鎖の低レベルの燐酸化状態における収縮)に関与する可能性が議論されている線維状蛋白質である。筆者はこれまでにその分子のC末端側がFーアクチン(FA)及びトロポミオシン(TM)にまたN末端側が重メロミオシン(HMM)に特異的に結合すること、そして溶液中で約半分の長さに折れたたまり易いことなどを既に報告している。今年度はCaDとFAおよびHMMとの結合様式を電子顕微鏡的に探ることを試みた。平滑筋の天然の細いフィラメントとほとんど同一組成であるKI抽出アクチン(FA、TM、CaDを含む)を軽度に化学固定した後ネガティブ染色するとアクチンフィラメントに沿ってTMと同周期(約38nm)の突出物が認められた。次にシステイン残基にビオチンを導入したCaDを含む同一組成のアクチンフィラメントをアビジンで標識するとやはり同じ周期が観察された。マイカ細片急速凍結レプリカ法で見られるKI抽出アクチンの像はTMと同じ周期でアクチンフィラメントから生え出す長い線維を示した。FAーTMのみではそのような構造は見られなかったことからこれらの結果は、CaDがそのC末端付近でFAーTMと周期的に結合しN末端部分はアクチンフィラメントから遊離していると解釈される。これはネガティブ染色像のみのデ-タからCaDの全長に渡ってFAに結合していると考えられる従来の仮説と矛盾する。一方、低蛋白質濃度、ATP存在下ではHMMはFAーTMとはほとんど結合しないが、CaDを含むKI抽出アクチンは同じ条件でHMMを弱く結合する。この試料にネガティブ染色を施して観察するとHMMがその尾部でアクチンフィラメントと結合している様子が示された。細胞内ではアクチン、ミオシンともに高濃度で存在していることから、太いフィラメント内のミオシンはその頭部とは別の部分でもアクチンフィラメントと相互作用している可能性が考えられる。
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