筆者は、平滑筋に特有な線維状蛋白質カルデスモン(CaD)の分子内機能分担に関して、そのC・端部がF-アクチン(FA)及びトロポミオシン(TM)にまたN-端部がミオシン・サブフラグメント-2(S2)に特異的に結合すること、そして低イオン強度の溶液内ではCaDは半分の長さに折れたたまることなどを報告している。このような性質が実際の分子構築にどのように反映されているかを調べるために、精製した蛋白質から再構成した細いフィラメント(FA、TM、CaDを含む)および天然の細いフィラメントを軽度に科学固定後、ネガティブ染色またはマイカ細片急速凍結フリーズレプリカ法を用いて電子顕微鏡観察した。その結果、再構成系においては、TMと同じ周期でFAから突出する線維状分子が観察された。また、脱燐酸化重メロミオシン(DP-HMM)頭部はATP存在下ではFAと結合しないはずであるが再構成フィラメントにDP-HMMを加えると、CaDの突出と同一周期で(恐らく複数の)HMMが結合しているのが見られた。類似の条件で脱燐酸下ミオシンも結合する。天然の細いフィラメントを生理的イオン強度に近い条件で固定観察すると線維状分子の突出は見られないがFA表面の螺旋が不明瞭であり何らかの分子が結合していると推定される。一方、やや低イオン強度で固定すると、ところどころに線維状分子の突出が見られ再構成フィラメントと同様の像が観察された。これらの結果は上記の生化学的データと良く符号する。 脱燐酸化ミオシンにより形成されるフィラメントはin vitroでは不安定で溶液にATPを加えると溶解する。しかし、CaD存在下ではフィラメントは安定化し、また、アクチンを加えると周期的に係留されることが判明した。以前から、平滑筋では弛緩時にも脱燐酸化ミオシン・フィラメントが存在し、in vitroの結果と矛盾するとの指摘があったが、CaDのこの様な性質により生理的状態が良く理解できるようになった。
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