研究概要 |
前年度にリジルエンドペプチダ-ゼ(API)の基質特異性決定基がGlu190ではなくAsp225であることを示したが、今年度はAPIの基質特異性決定基を含めた基質結合S1ポケットを構成するアミノ酸残基を順次トリプシン型に変換し、APIの基質特異性のトリプシン型への改変を試みた。 APIがリジル結合のみ加水分解するのに対して、トリプシンはリジンとアルギニンに特異的である。この基質特異性の違いはS1ポケットの構造の微細な相違に由来すると考え、両酵素のS1ポケットの構造を詳細に比較検討した。APIとトリプシンのS1ポケットを構成するアミノ酸残基及びその構造は殆んど同じであるが、APIのポケットの側壁に位置するAsp225の側鎖がポケットの内部に突き出し、トリプシン(Asp225に対応する残基はGly226)と比べてポケットの深さが約2A^^°浅くなっている。このためAPIはリジンより長い側鎖のアルギニンを切断できないのではと推測した。そこで、APIのS1ポケットの底を深くするために部位特異的変異でAsp225をGly,Val188をAspにそれぞれ置換した変異体(DSG)を作製し大腸菌で発現させた。しかし、発現産物は成熟体でなくプロ体の形でペリプラズムに分泌した。このことは2箇所のアミノ酸変異によりAPIのリジル結合水解活性が著しく減少しLysーGly結合切断によるプロ体から成熟体への自己活性化が起こらなかったためと推測される。この活性低下の原因がSer214(トリプシンではGly)の側鎖の立体障害のため新しく導入したAsp188が基質特異性決定基の役目を果たせないと推測し、さらにSer214をGlyに置換(DGG)したが活性の回復は見られなかった。今後さらに部位特異的変異によりAPIのS1ポケットの形をトリプシン型に近づけることでAPIの基質特異性の改変を試みる予定である。
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