日本近辺の深海にすむホタルイカの網膜には三種類の波長感度曲線の異なる視物質が存在することを発見した。ホタルイカの上から来る光が像を結ぶ目の下側の網膜は他の部分に比べて感光部(感杆)が他の部分の三倍の長さの600ミクロンもある視細胞からできている。そのレンズ側の400ミクロンの感稈には動物界で新しく発見された4ーハイドロキシレチナ-ルを色素団としている吸収極大波長が約470nmにある視物質が存有し、その下側に位置する感桿には3ーデハイドロレチナ-ルを色素団とする吸収極大波長が約500nmの視物質が含まれている。網膜の他の部分にある短い視細胞にはレチナ-ルを色素団とする吸収極大波長が484nmの(ビタミンA1を色素団とする)視物質が含まれている。三種の視物質の機能を明らかにするために網膜内での正確な幾何学的配置を、顕微解剖した網膜片のホトンカウント法による吸収曲線の実測と、切片のHPLCによる色素団の分析によって明らかにすることができた。新しい視物質の色素団はβイオノン環にOH基が付くことによって吸収が短波長に移動している。この様な視物質の吸収極大の調節は動物界では始めて見られたものである。幾何光学的構造も極めて発達した眼を持つ頭足類は今まで色盲であると考えられていたが、ホタルイカは三種の視物質による色覚を持つ可能性を持つている。このような視物質系がホタルイカ以外の数種のイカやタコにも存在することが英国海洋研のHerringらとの共同研究で大西洋から採集されたものにも存在することが解った。一方ホタルイカは温度の変化に応じて発光する光の波長を変えることが出来ることを明らかにした。5度以下の低温では470nm極大の青い光、12度以上では530nm極大の黄緑の光を発光していることが解った。このようにホアルイカの視覚と発光は見事に適応していることをかなり明らかにすることができた。
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