これまでの我々の研究によって、Ca^<2+>キレ-ト剤BAPTAをカエル神経筋接合部のシナプス前神経末端内に負荷すると促通が著しく減少し、これはBAPTAのCa^<2+>緩衝作用によること、アミノ基修飾剤TNBS、高張条件等が引き起こす放出増大はBAPTAの影響を受けないこと、したがってこれらは、〔Ca^<2+>〕の増大によって起こるのではないことが明らかになっていた。本研究ではこの知見をもとに、以下の結果を得た。 (1)BAPTAをシナプス前末端に負荷すると、このシンプスの可塑性として知られる4種の神経刺激後の放出増大のうち、速い促通は完全に消失した。これは、速い促通についてのB.Katzの'残存Ca^<2+>仮説'を強く支持している。他のゆっくり減衰する3種の放出増大:遅い促通、増進、増強、はBAPTA負荷によって全く変化しなかった。よってこの3種は〔Ca^<2+>〕とは独立な調節機構によって起こる。 (3)細胞外液のCa^<2+>を除いた条件で神経刺激を行った場合も、微小終板電位(MEPP)の頻度の増大として、増進と増強がはっきりと観測され、両者はBAPTAの影響を全く受けなかった。従って刺激によって流入したCa^<2+>が何か間接的な影響を与えて増進し増強が起こっているのではない。 (4)BAPTAの伝達物質放出過程に与える影響をさらに詳しく見るために、BAPTA負荷の時間経過を観察した。細胞外にBAPTAのアセトキシメチルエステル(BAPTAーAM)0.1mMを潅流すると、潅流開始後約20分で速い促通は消失した。大部分のシナプスで、低Ca^<2+>条件での神経刺激による放出量はBAPTAを負荷していっても変わらなかった。この結果は、‘刺激に伴う放出は、刺激時に放出部位のCa^<2+>チャネルのすぐ近傍に生ずる〔Ca^<2+>〕のピ-クによってトリガ-され、この〔Ca^<2+>〕のピ-クはBAPTAの影響をほとんど受けない。'という仮説によって説明出来る。 (5)上の仮説を確かめるため、Ca^<2+>チャネルの周りに生じる〔Ca^<2+>〕_iのピ-クと流入して細胞内に溜まる残存Ca^<2+>に対するBAPTA負荷の影響をコンピュ-タ-シミュレ-ションによって調べた。その結果上の仮説が正しいこと、残存Ca^<2+>はBAPTAによって効率よく除かれることがわかった。 Ca^<2+>に独立に起こる3種の刺激後放出増大はこれまでの研究でそれぞれ別の機構で起こると考えられており、〔Ca^<2+>〕_iに独立な調節にはいろいろなものがあると思われる。現在アラキドン酸やCキナ-ゼ系がこの様な〔Ca^<2+>〕_iとは独立な調節に関与している可能性を示す予備的な結果を得ている。我々の結果に続いて最近いろいろなシナプスでCa^<2+>に独立な放出機構の存在が報告されるようになってきた。
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