1.フローフラッシュ法でチトクロム酸化酵素と酸素もしくは過酸化水素との迅速反応を測定する際に、絶対的な嫌気状態を作り出すことが必須である。従来の混合装置は流路切り替えに手動の機械式レバーを用いていたために、酸素の混入を完全に排除することが不可能であった。そこでルビー玉を用いたボールバルブを採用し、さらに機械的接触面のある部分に、強制的に窒素ガスを充満させることにより、完全な嫌気状態を保つことが可能になった。そして嫌気条件下でチトクロム酸化酵素を亜ニチオン酸ナトリウムで還元する際のスペクトル変化を、1ミリ秒から30分の10^6にわたる広範な時間領域で記録することにより、2種類のヘムの非還元速度の違いから両者のスペクトルの完全分離に初めて成功した。この基準となる絶対吸収スペクトルを用いることにより、動的変化の詳細な解析が初めて可能になり、いくつかの成果をすでに得た。さらに嫌気条件下で還元型チトクロム酸化酵素に過酸化水素を作用させると、まず酸化還元中心が迅速に酸化されてから、ペルオキシ型、フェリル型に変化することを、可視、Soret帯にわたるスペクトル変化の立体的表示方法で明らかにした。 2.チトクロム酸化酵素のプロトンポンプ活性にCu_Aの役割が示唆されている。このたびCu_Aを欠いた酵素標品をNitorosomonas europaeaから得、酸素との反応をフローフラッシュ法で調べ、正常な酵素標品の振る舞いと比較検討した。その結果、Cu_Aを欠いた標品では、酸素との反応速度はもちろんのこと、分子内電子移動の速度が、正常な標品よりもかえって高いことが判明した。即ち従来Cu_Aは分子内電子移動に必須の酸化還元成分と考えられていたのでこの役割が否定された意義は極めて高い。従って、Cu_Aの機能、役割は、酵素分子の立体構造の維持、その変動の制御にあると考えられ、プロトンポンプへの関与も推定される。
|