研究概要 |
1.ヒト精子染色体に及ぼす放射線の影響 種々の線量(6.5ー423.1cGy)の ^<137>Csγ線をin vitroで照射したヒト精子をハムスタ-卵に体外受精させ、1細胞期に精子染色体異常出現率を調査した。照射群と対照群合わせて5,354精子を染色体分析した。構造的染色体異常をもつ精子の出現率は低線量域(6.5ー109.3cGy)では線量に伴って直線的に増加したが、その後、増加率は次第に低下した。また、切断型異常の出現率は交換型異常のそれよりはるかに高かった。線量効果関係は切断型異常および染色体型交換では直線的であったが、染色分体型交換では二次曲線的であった。 2.ヒト精子染色体異常自然発生率 正常男性16名から得た3,494精子を染色体分析した。異数性(1.3%)および構造異常(13.7%)の出現率はこれまで我々が得た結果とほぼ同じで、構造異常をもつ精子の出現率に著しい個人差(7.0ー24.8%)があることも再確認された。観察された異常は出現頻度の高い順に切断、染色体断片、交換、ギャップおよび欠失であった。 3.ヒト精子染色体に及ぼす化学物質の影響 A)トリエチレンメラミン、B)サイクロフォスファミド、C)マイトマイシンC、D)ブレオマイシン、E)ダウノマイシン、F)メタンスホン酸メチルの6医薬品(制癌剤)をin vitroでヒト精子(予備実験では凍結ー融解ウシ精子を使用)に作用させ、染色体に及ぼす影響を調査した(分析数:薬品処理群2,368精子、対照群2,055精子)。構造的染色体異常誘発能の認められた薬品は、A(0.1μg/ml,120分),D(50μg/ml,90分),E(0.1μg/ml,90分),F(100μg/ml,120分)の4種で、B(1ー1000μg/ml,120分),C(0.1ー100μg/ml,120分)には異常誘発能が認められなかった。 4.凍結保存精子の染色体分析 ヒト精子用凍結保存液5種、A)Ackerman's medium,B)HSーII medium,C)HSPM medium,D)modified HSPM medium,E)TEST yolk bufferをテストした。精子蘇生率はB)およびE)を用いた場合に最もよかった(40ー50%)。体外受精の成功率にはまだばらつきがあるが、高い精子染色体分析率の得られた例もかなりあった。今後さらに改良すれば、凍結保存精子の利用は十分可能であると思われる。
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