研究概要 |
海洋無脊椎動物の分泌する接着タンパク質はバイオ接着剤として基礎および素材開発研究の両面から今後の発展が期待される分野である。この研究を海洋無脊椎動物の採集から始め,分泌する接着タンパク質の収集・精製によりアミノ酸分析の知見を得,高分子合成を行った。当該年度に主に取り扱ったのは(i)アコヤ貝の足糸接着タンパク質の分析,(ii)ゴカイの外皮クチクラコラ-ゲンの総合評価,(iii)海洋接着タンパク質モデル化合物の合成,(iv)天然・合成接着タンパク質関連化合物の被接着基盤との物理化学的なアプロ-チ・評価である。 (i)のアコヤ貝は純国産の貝であり,従来欧米の知見のみに立脚してこの分野を研究して来たのを我が国で生まれた海洋接着タンパク質化学を育てようという意志により着目した。幸い分子構造の検討が可能な状況に至りつつある。(ii)は接着タンパク質自身は現在少量しか入手出来ず高価であるため,素材として評価・検討する場合,増量剤としてコラ-ゲン・ゼラチンを用いる事が出来ないかを考察した。分子量が巨大に過ぎ,溶解性に工夫を要するが,今後の展開次第では有用なコラ-ゲン・ゼラチン材料として用いることが出来そうである。(iii)海洋接着タンパク質にはその一次構造が決められているものが既にいくつかあるので高分子合成化学の立場からイガイ類の繰り返えしアミノ酸配列を有する接着タンパク質を合成した。この合成接着タンパク質の評価を多方面から実験中である。(iv)本年度の助成により接触角計が購入出来たので,水系での接着性を基盤表面とのエネルギ-的な相互作用として計数化し,アミノ酸の配列・組成,分子量,コンホメ-ション,官能基密度と表面との関連付けが可能になり,一部興味深い成果を得つつある。 淡水系の接着タンパク質を含めて研究成果の一部を国内外の学会に口頭で,また外国専門雑誌に論文として報告した。
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