研究概要 |
本研究は、数種魚卵に糖タンパク質由来のアスパラギン結合型糖鎖が遊離状態で多量に蓄積されているという本研究者の発見に端を発する。動物細胞においてこのような現象は従来知られておらず、この現象の解明によって、糖タンパク質糖鎖の機能や代謝経路についての新しい知見が得られることが期待される。本年度に下記の実績を挙げた。 (1)遊離糖タンパク質糖鎖が多量に蓄積されているアユおよびウグイ未受精卵について、それぞれの遊離糖鎖と同一構造の糖鎖をもつ糖タンパク質を検索し、ホスビチンの一分子種であるリン酸化糖ペプチドの糖鎖が遊離糖鎖と同一構造をもつことを明らかにした.ホスビチンはビテロジェニンのプロセシングで形成されることから、遊離糖鎖はビテロジェニン由来であり、糖鎖の結合と遊離は卵細胞によるビテロジェニンの受容,輸送そして卵黄形成のためのタンパク質部分分解の過程で意義をもつ機構であることが推定された。 (2)糖タンパク質から糖鎖が遊離する反応を触媒する酵素(PNGase)は植物の種子や細菌由来のものが知られているが、動物細胞に存在することを示した報告は無い。魚卵における糖タンパク質糖鎖の遊離には、PNGaseが関与していることが推定される。この酵素の存在が証明されれば、動物細胞に見出された初めての例となるので重要である。この目的に適した実験系として、実験室で飼育・採卵が可能なメダカ卵を検討したところ、メダカ卵においても、ホスビチンの糖鎖と同一構造の遊離糖鎖が蓄積されていることが見出された。 (3)PNGase活性の検出に用い得る感度と特異性の高いアッセイ法の確立を試みた。概要は、糖鎖遊離前後で分子の大きさが著しく異るような糖ペプチドを調製し、そのN末端を放射標識したものを基質に用い,反応後反応物から生成物を分離するものである。
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