本研究は、近年のDNAテクノロジ-の発展の成果を生かし、古文書・古記録等が殆ど皆無に等しい遠い古代における歴史的資料である出土人骨からDNAを抽出し、その遺伝子分析により古代社会の構成員の遺伝的関係(性別・血縁関係など)を明らかにし、古代社会構造の解析・復元システムの開発をめざすものである。研究計画の中間年度にあたる本年度は前年度に引き続き、(1)長期間土の中に埋蔵されてきた生体試料である人骨からDNAを抽出し、以降の分析に問題のない純度までDNAを精製するための方法の開発・改良、(2)かなり短い断片になってしまっているDNAしか抽出できない人骨試料をもちいて、効率よく、さらに高い解析精度でそれらの個体の遺伝子分析が可能な分析法の開発と、これらの方法の実用化段階での試験を弥生ならびに古墳時代出土人骨をもちいておこなった。 (1)に関しては、これまでに重ねた種々の試みにより抽出DNAの純度はかなりの程度上げることができたものの、その純度には限界があった。DNAの保存は人骨が埋蔵されてきた状況に大きく依存し、これが以降のDNA分離・精製の結果を基本的に左右した。そこで、同じ個体からの試料のどの部位からDNAを抽出したらより純度の高いDNAが得ることができるか検討した結果、一般的には歯根から抽出したDNAが良い結果を与えた。(2)に関しては、性染色体上に位置するアルフォイドDNAを性判別に、常染色体上に位置する2塩基からなる直列型反復配列を父系ならびに母系の両家系分析に、ミトコンドリアDNAのDル-プ領域を母系分析にもちいるのが現段階では最も情報量が多くかつ実用的であることの結果を得た。そして、弥生ならびに古墳時代出土人骨の骨ならびに歯から抽出したDNA試験分析から、以上の結果の妥当性が支持された。
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