本研究は新規材料の素材としての活性分子種の設計という観点に立脚し、不安定分子種を極低温マトリックス単離することにより、従来とは全く異なる新しい物性を持つ有機機能材料の創出を図ることを目的としたものである。電子豊富な求核剤であるスルフィド、ホスフィン類や非共有電子対を有するナイトレンやシリレンの様な活性種は、酸素分子と反応し酸化物を生じることは既に知られているが、反応の初期に生成する活性酸素種の可能性についての研究はない。本研究では、これら活性酸素種を低温酸素マトリックス中で生成させスペクトル解析により構造を解明し、さらにそれらを熱的、光化学的に制御することにより後続の反応をデザインし、特異的な新しい反応を開発しようと試みた。 反応基質としてスルフィド、ナイトレンや高反応性のシリレンを選択し酸素分子との反応性、付加体の構造の解明及びそれらの熱的、光化学的変換を検討した。さらに材料の素材としてより有用性の高いσ一結合の酸素化の検討を試みた。酸素の同位体実験により付加体の構造を解明する事ができた。又、付加体の構造に関する理論計算も合わせて行ない、実験結果を支持する結果が得られた。 以上、本研究において酸素酸化反応を低温酸素マトリックス中で行なうことにより、反応初期に生成する活性酸素種の構造を解明し、さらにそれらの熱的、光化学的変換を制御することにより新しい酸素化物を合成する事に成功した。今後、低温マトリックス法を用いた新しい酸素化反応の合成化学的価値や工業的有用性が増す事を確信する。
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