研究概要 |
透過電子顕微鏡観察においては薄膜試料の調製がその作業の50%以上の比率を占めるといわれている。これは薄片試料が電子線を十分に通すだけの厚みであり、かつ表面は滑らかであることが要求されるためである。特にセラミックスにおいては多くが化学的に安定であるため、イオンシニング法が一般的に用いられているが、イオン衝撃による損傷(微小欠陥の発生,非晶質化)や表面荒れの問題を抱えているのが現状である。本研究においては、超精密位置制御機構を備えた自動研磨装置の試作と、歪の入らない機械研磨のみによる透過電顕用薄膜試料の作製技術の確立を目的とした。 まず、従来よく用いられたきた種々の薄膜化法(研削,ポリッシング,ディンプラ研磨)による表面損傷の状況を透過電顕により調査した。炭化ケイ素多結晶体においては研削、ディンプラ研磨の双方とも表面に著しい残留応力があり、粒内割れ及び粒界割れが伴っていた。また、ダイヤモンドポリッシングは高密度の表面スクラッチが生成していた。これらの方法は電顕試料作製法としては適さないことがわかった。 これらの観察結果から、高精度高能率の鏡面加工として注目されらいるメカノケミカルポリシングの手法を取り入れた新しい研磨の概念に基づく'ス-パ-ディンプラ'の設計・開発を行った。溶液中で回軽数10^4min^<-1>以上で回転するディスクを非接触で試料表面に近づけることにより、高速砥粒が無歪で研磨を行うことを原理とする。設計段階で課題となった振動対策は系全体の剛性を高める工夫によりこの問題を解決した。 アルミナ砥粒で実験を行ったところ,非接触状態で除去加工が進行していることを確認した。これは,メカノケミカルポリシングを用いたディンプル加工が可能であることを意味する。将来的には加工時間を大幅に短縮し,表面損傷を回避した透過電顕用の薄膜作製ができることを示唆している。今後は工具の材質,形状などの改良により加工の性能を向上できると考えている。
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