本研究は、既設の鉄筋コンクリ-ト構造物を対象として、その劣化度を判定し、余寿命の予測ならびに補修時期の判定を行うための客観的な劣化診断システムを開発するものである。考慮する対象の劣化現象としては、(1)アルカリ骨材反応、(2)塩害による鉄筋腐食(内部含有)、(3)塩害による鉄筋腐食(外部浸透)、(4)凍結融解、(5)酸による腐食、(6)乾燥収縮ほか、(7)構造劣化を取り上げている。 本研究で開発した劣化診断システムは、従来では行われていない新しい考え方に立脚したもので、劣化原因のみならず余寿命の予測までを行えるものである。一次劣化診断(目視検査)では劣化原因ならびにその程度を、専門家でない検査員でも、また細かく単位当たりのひび割れ密度等を調査せずとも、ファジ-推論を用いて上記(1)〜(7)の範囲の劣化に対して、ほぼ客観的に判定し得るものとなっている。二次劣化診断では、非破壊検査およびコア採取調査に基づき、専門家による簡便な予測を行うための手法を開発した。一次診断に基づきその劣化の専門家による調査を実施することで、余寿命を定量的に算出することができるため、補修の要否等を工学的立場から明確に判断することができるだけでなく、劣化原因が明かであるため、必要最小限度の現地調査ですむことが特徴である。ただし、上記全ての劣化現象についてはまだ適用ができず、特に重要であると考えられる中性化による劣化、アルカリ骨材反応による劣化、疲労荷重等の繰り返し載荷荷重による劣化を主体とした。本システムを既存のコンクリ-ト構造物へ適用した結果、ほぼ予定道りの結果が得られた。今後は、更にこのシステムをあらゆるコンクリ-ト構造物の劣化現象に対しても予測が可能となるよう研究を推進するとともに、より精度のよい目視による劣化レベルの推定を行うためのデ-タの収集が必要であると思われる。
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