研究概要 |
本年度は,軽油燃料から調製したススに水酸化カリウム(KOH)を含浸したあと,前年度と同様に高温(550〜700℃)で水蒸気に接触させ,主として水性ガス反応を試験した。そのさい,キァリア-ガスとしては前年度のヘリウムの他に,ガス化剤としての期待を含めて炭酸ガスを用いた。しかし,試験結果ではヘリウムの場合にややガス化率が高くなった。炭酸ガスがKOHから炭酸塩への転化反応に作用し,触媒KOHの効果を減じることがわかった。水蒸気ヘリウム系では,プロパン・スス,ガソリン・スス,軽油・ススからいずれもKOHによってCO,CO_2,H_2が安定に発生することが実証できた。メタンは1%以下であった。活性炭を含めたこのような炭素パ-ティキュレ-トのガス化にKOHが特に大きな効果を示した点は,今後同種物質の合成ガス化にも結びつく可能性のある重要な知見である。なお,この安定なガス化速度を得るには反応管形状や水の供給速度にも注意する必要がある。ガス化は温度に強く依存し,KOHの濃度にはほとんど依存しないことも判明した。KOHはガス化後に残った。 KOH処理前後の炭素粉末の表面特性測定(表面積,水素吸着,走査型電子顕微鏡(SEM)観察)および熱分析(DTA-TG)や粉末X線回折測定,KOH含有率測定などにより,スス内でのKOHの挙動と触媒作用について考察した。まず,KOH含浸によってススが反応しやすくなる。これを加熱するとKOHの脱水(2KOH→K_2O+H_2O)により生成したK_2Oが,隣接炭素と反応(K_2O+C→2K+CO)してCOを生成する。さらに水蒸気により水素を発生(2K+H_2O→K_2O+H_2)する。そして,このような触媒サイクルは炭素細孔内で進行し,炭素が消費されるので結局この細孔はKOHによって侵食され表面積を増大させる。炭素粒子間隙や粒子自身の大きさがガス化後に小さくなることはSEMにより確かめられた。熱分析からは,炭素表面の水吸着性,空気中での燃焼性がKOHにより高まることを認めた。
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