LB膜は水面上の不溶性単分子膜を固体基板上に移行させて累積、作成される有機超薄膜であり、その中では膜分子は規則正しく配向、配列していると考えられてきた。しかし、詳しく調べてみると、LB膜中の分子には多くの乱れがあり、LB膜には多くの分子的欠陥があることが最近判ってきた。それが、LB膜が期待されているほどには実用に結びつかない大きな原因であった。この科学研究費補助金で開発してきた「高品質複合LB膜を全自動的に累積できる実用装置」は、2台のマイクロコンピュ-タ(マイコン)を制御に用い、1台のマイコンは2種類の膜物質の表面圧を精密制御し、もう1台のマイコンが水面温度を自在に制御するとともに、全自動累積時の基板の複雑な動きを制御する。研究の進行は計画より遅れ、1年目に装置開発の終了にまでは至らなかったが、本年度は実用装置を完成することができ、これを用いて多くの研究成果をあげ、報告することができた。(裏面、研究成果参照)。特に上記、単分子膜中の欠陥を減少させ、高品質なLB膜を累積することにつながる、不溶性単分子膜のAーT等圧線測定に関してもいくつかの論文を提出できた。装置の制御プログラムはブロック化され、膨大な制御プログラム全体の構成を分かりやすく、見通しを良くするとともに、誰でもこの装置を使えるように、メニュ-方式とし、好きな使い方ができるものとした。さらに本年度は、水面上の単分子膜を直接観察することのできる、ブリュ-スタ-角干渉顕微鏡(これは研究費申請時には計画に入っていなかったが、昨年夏前にフランスで論文が発表され、急遽計画の変更を届けて部品集めにとりかかったもの)を一応完成させた。水面上の単分子膜を直接観察することは従来非常に因難であったが、この装置によりそれが可能になり、特に相転移を起こしつつある2相共存領域の単分子膜の観察に、今後威力を発揮しよう。また今回開発した自在に温度制御できるLangmuir水槽と、この顕微鏡の組み合わせは、単分子膜、LB膜の直接観察、品質評価に非常に役立つものになり、したがってLB膜の高品質化に特に有効なものとなるであろう。
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