放射線グラフト重合法のプロセスは、照射工程と重合工程の二工程からなる。ポリエチレン(PE)に窒素雰囲気で電子線を照射すると、本研究の照射範囲内(160kGy以内)では、アルキルラジカルとアリルラジカルが生成する。照射後、PEを空気と接触させると、PEの結晶表面に存在するラジカルは、酸素と反応してパ-オキシラジカルとなる。グラフト重合に関与するラジカル種を同定するためには、アルキルラジカルとアリルラジカルのスペクトルを分離しなければならない。そこで、理論スペクトルを作製する必要がなく、しかも照射直後のアリルラジカル濃度も考慮できる新しいスペクトル分離法を提案する。 本研究は、照射後、空気と接触する場合に相当する。多孔性ポリエチレンキャピラリ-繊維状精密濾過膜に電子線を照射した。PEに生成したラジカルのESRスペクトルを分離する新しい手法を提案し、各ラジカルの挙動を検討した結果、以下の知見を得た。 (1)窒素中と空気中におけるラジカルの減衰挙動を調べた。挙動に変化が見られたのはアルキルラジカルだけであった。したがって、酸素の影響を受ける場所に存在するアルキルラジカルが、グラフト重合反応での開始ラジカルであることがわかった。 (2)空気中でのアルキルラジカルの減衰が、各温度において球座標の拡散方程式でシミュレ-トできた。したがって、保存温度を決めるとPE結晶内に存在するアルキルラジカル量の経時変化を推測することができる。
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