研究概要 |
種々の成人病の原因となる肥満は,個々の脂肪細胞への脂肪の蓄積のみではなく,前駆細胞から脂肪細胞への分化・増殖が極めて重要であることが判明し,この脂肪細胞形成を促進,抑制の両面から制御する内因性因子が存在して,これらが摂食条件やストレス,運動などの状況に由来する刺激によって血中へ放出されると考えられるに至った。本研究は脂肪形成を支配する脂肪細胞形成因子類の精製,構造決定をし,摂食条件をはじめとする環境要因と本因子類の生体内の動態を明らかにし,環境要因と肥満成立との関係に具体的な情報を提供するとともに,脂肪細胞形成の制御に関与する因子類の動物への投与による積極的な肥満防止,健康維持への道を拓こうとするものであって,本年度は以下のような成果を得た。 前駆脂肪細胞のモデルとして3T3ーL1細胞及びob1771細胞を用い,その増殖因子を検定するために,完全に組成の判った無血清培地を確立した。これを用いてラットの脂肪組織中に前駆脂肪細胞の増殖を特異的に誘導する因子が存在することを見いだした。この因子は分子量約2万のタンパク質であって,他の細胞に対して増殖活性は示さなかった。またラットの摂食条件を変動すると,エネルギ-量に依存して脂肪組織中の増殖因子の量が増加することから,本因子が脂肪細胞形成に重要な役割を果していると考えられる。一方,前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化のプロセスにおいては,その初期においてIGFー1,LPL(リポプロティンリパ-ゼ)の発現が認められ,分化誘導に対する重要性が示唆された。また脂肪細胞への分化のプロセスは,脂溶性のビタミンやカロテノイド類によって強く抑制された。特に大量投与によっても無害であるカロテノイドによる抑制作用は注目すべきものと考えられる。
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