研究課題
本年度研究実施計画に添って実験を進め、次の成果を得た。1)高純度Cl^-感受性蛍光色素の合成:Verkmanらの方法によりNー(6ーmethoxyquinolyl)acetoethyl ester(MQAE)を合成し、NMRにより99%以上の純度であることを確認した。2)ビデオ信号処理装置の作製:SITビデオカメラによる蛍光顕微鏡画像を、NTSCフォ-マットのビデオ信号に変換した。同期分離後、測定すべき領域に対応するウィンドウパルスを作成し、輝度信号を切り出し、低域フィルタを通してペンレコ-ダ-により記録した。3)細胞内Cl^-濃度標準曲線の作成:細胞膜透過性が高くMQAE消光効果を持たないNO_3^-をCl^-置換用イオンとし、高濃度K^+(135mM)、バリノマイシン、ナイジェリシン、トリブチルチンおよび種々濃度のCl^-を含む細胞外潅流液により、細胞内MQAE蛍光の消光曲線をCl^-濃度に対応させた。この方法により無処置の培養ラット海馬神経細胞およびウサギ角膜内皮細胞の細胞内Cl^-濃度は、それぞれ6.6±1.6mMおよび30.1±1.6mMであることが初めて示された。4)上記の方法を応用しラット海馬神経細胞の細胞内Cl^-濃度制御機構を検索した。細胞内Cl^-濃度はNa,KーATPase阻害剤であるウアバインおよび細胞内外pH勾配を消失させるCCCP+NH_4^+では変化せず、Cl^-ポンプ阻害薬であるエタクリン酸または細胞内ATP濃度を減少させる処置により上昇したので、海馬神経細胞はエタクリン酸感受性でATP要求性のCl^-ポンプにより細胞内Cl^-濃度を低く保っていることが明らかになった。Cl^-感受性蛍光色素の使用とビデオ信号処理装置の作製により、これまで測定不可能であった単一小細胞の細胞内Cl^-濃度の測定が可能になり、細胞単位でのCl^-輸送系の解析が可能になった。
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