研究課題
昨年度の研究で我々はネズミ糞線虫(Sr)の抗原のうち、好中球遊走因子(NCF)の精製を試みた。しかし、DE52陰イオン交換カラムとSW3000高速液クロにより得られた活性分画、また、DE52分画をProcion Redカラムで分画して得られた活性分画は、SDS-PAGEでまだ多様な成分を含んでおり、これに対する抗体を作成しても以後のスクリ-ニングは困難であることが判明した。また、Sr幼虫よりmRNAを分離しcDNAライブラリ-作成を試みたが約5000の独立クロ-ンしか得られず、スクリ-ニングを行なうことができなかった。そこで、既に精製されているイヌ糸状虫(Di)NCFを利用することを考え、ウェスタンブロットでDi-NCFエピト-プとSr抗原との交差反応性を調べたところ、Sr-NCFを含む複数のSr抗原が交差反応性を有することが判明し、これを利用して遺伝子のクロ-ニングができる可能性がひらけた。そこで今年度はまず、Di-NCFをコ-ドするcDNAのクロ-ニングを試みた。オリゴdTカラムによりDi成虫からpolyA-RNAを分離し、cDNAを作成してEcoRIアダプタ-を結合してλgT11のEcoRIサイトに挿入した。これから20万クロ-ンのcDNAライブラリ-を作成し、抗Di-NCF抗体を用いてクロ-ニングを繰り返した。ファ-ジDNAを精製し、EcoRI処理後電気泳動を行なって0.7-2.0KbのものをBluescript SK(-)にサブクロ-ニングし、M13プライマ-を用いてジデオキシ法にて塩基配列を決定した。また、精製Di-NCFのN末アミノ酸配列を45残基まで決定し、各クロ-ンの塩基配列より推定されるアミノ酸配列と比較したところ、サブクロ-ンpD4の5′末から268番目より402番目までを翻訳した部分に完全に一致することが判った。また、これからオ-プンリ-ディングフレ-ムは5′末から166番目より606番目で、34個のアミノ酸残基から成るリ-ダ-シ-クエンスと112アミノ酸残基のDi-NCF分子をコ-ドしていることが判った。ホモロジ-検索で、99番目より101番目までの配列(Met-Phe-Lys)が好中球遊走性ペプチドと類似していることから、この部分が活性エピト-プとなっていると考えた。実際、固相法により合成したMet-Phe-Lys,fMet-Phe-Lysは既知のペプチドより低濃度で活性を示した。pD4を高発現型プラスミドベクタ-pGEM EXにサブクロ-ニングしgene10との融合蛋白を作成したところ、この蛋白はDi-NCFと同様の抗原性と好中球遊走活性を示した。この融合蛋白で免疫したマウスは予想に反してフィラリア(B.pahangi)に対する感染感受性がコントロ-ルマウスより高くなっていた。これはDi-NCFに対するブロッキング抗体などの免疫抑制反応が強く誘導されたためと考えられる。今後更に用いるアジュバントの種類や免疫のル-ト、スケジュ-ルなどを検討する必要がある。
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