ヒトロタウイルス(HRV)は乳幼児下痢症の病原ウイルスであり、HRV下痢症の制圧は世界的急務である。そこでその予防並びに治療の研究が進められているが、HRVの感染・発症機構に不明な点が多く、動物感染モデルの作成が必要であった。我々は当教室で分離したHRV・MO株(血清型3)を生後5日のBALB/cマウスに経口感染させたところ24時間後より3日間典型的な下痢を発症させることに成功した。そこで以下の実験を行った。 1.抗HRV卵黄抗体およびHRV免疫牛初乳による下痢発症予防 産卵鶏範にHRVを免疫して得た卵黄IgYは用量依存的、血清型特異的にマウスの下痢発症を予防した。次に妊娠8ケ月のホルスタイン乳牛にHRVで免疫して得たHRV初乳はHRV4血清型全てに抗体価を持ち、マウス感染系で完全に下痢発症を予防した。そこで乳児院を使い20名を2グル-プにわけ、対照の10名中7名でHRVによる下痢が発症したのに対し、毎日2週間初乳を20mlずつ飲用させた3名では下痢が発症せず、1日おきに飲用させた3名では1名だけ下痢が発生した。一方軟便などの症状が現われてから飲用させた4名は全て下痢を発生し治療効果はなくこの抗HRV免疫牛初乳は予防薬として期待される。 2.担子菌製剤PSKとプロテア-ゼ阻害剤による下痢治療 蛋白結合多糖体であるPCKはin vitroでHRVに結合して不活化する。そこでマウスにHRV感染後経口投与したところ下痢治療効果が認められた。一方HRVはin vitroでプロテア-ゼを処理すると感染価が上昇することがわかっている。そこでプロテア-ゼ阻害剤であるEー64ーc、オボシスタチン、アプロチニンを感染12、24時間後に投与すると感染2日後の下痢の発症をおさえ、治療効果が認められ、今後の臨床治験が期持される。
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