正常の皮膚は柔軟で滑らかである。一方病的皮膚の表面は硬くてもろく、亀裂や鱗屑で履われる。これらは皮表の角層の水分含有量の多寡により決まる現象である。角層の水分保持の状態は私たちの開発した高周波伝導度測定装置を用いて測定が可能である。さらに、角層の剥離の状態バリア機能、層数、水分と結びつくアミノ酸含有量の測定、皮膚の弾性、硬さの測定、皮表の顕微鏡的観察などの検索を加えることで角層の機能を総合的に評価することをめざし、本研究を行った。その結果以下のような成果がえられた。 1.新生児は出生後乾燥した大気に触れるため皮膚は乾燥してくる。生後、一週間目までは発汗もみられず、それも乾燥の状態を助長させる。 2.アトピー性皮膚炎患者の無疹部の皮膚は乾燥が著明であり、アトピー性乾皮症と呼ばれる。その角層は水分と結びつくアミノ酸の量が低下しているため正常よりも多量の経表皮水分喪失がみられる。病理組織学的にもリンパ球の浸潤がみられることから本症は軽度の炎症の存在によっておこる変化と考えた。 3.皮膚は老化とともに乾燥し、老人性乾皮症と呼ばれる変化を生じる。これは角層のバリアー機能は老化によっても低下しないのに、角層の水分と結合する物質が低下するため、とくに冬、空気が乾燥すると生じてくる。一方長年の紫外線曝露による光老化のある皮膚では、このような角層の変化はそれほど顕著ではない。 4.レチノイド酸外用、あるいはレチノイド(エトレチナート)の内服は角層の水分保持機能を高めるだけでなく、角層の剥離効果によるバリア機能の低下を生じ、経皮水分喪失を上昇させる。これらのことが治療を受けた皮膚の柔軟性の上昇に関係すると考えられる。
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